第5話

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『引っ張れぇぇ』  親方の合図と同時にレバーを力一杯引く。奥歯を噛みしめて、腕が震えるほど力を込めるが半分までしか動かない。まるでレバーと腕相撲をしているようだ。  ……クソ、動けよ。  歯が砕けたって構わない。腕が千切れたって構わない。最後なんだ。  全身から汗が噴き出して、レバーを握る手も滑りそうだ。  ……もう、駄目だ。  限界。その言葉が頭をよぎった。 『若者はだらしないな。もうお仕舞いか?』  トランシーバーから声が聞こえた。その瞬間、ぴくりともしなかったレバーが軽くなった。 「鈴木……さん?」 『やっぱり僕達がいないとね』 『こうなる事も想定内です』 「初台さん? 西さん?」  運転席のドアがコンコンとノックされる。窓の外には本多さんがいた。 「選手交代だ。今回のデッドライン役はお前だろ?」  僕は呆然と本多さんを見つめた。 「どうして?」 「つべこべ言わずさっさと降りろ、新米!」  トランシーバーを上着のポケットに差し込んで、本多さんは無理矢理僕を引きずり出した。僕は状況が飲み込めずに、クレーンの足元に尻餅をついた。 『お前らぁ! なんで戻ってきた!?』  上着のポケットに突っ込まれたトランシーバーが怒声を伝える。 『親方、航空券の日付を確認しました? 有効期限が切れてましたよ』  僕は慌ててポケットを探る。グシャグシャになった航空券を開いて中を見ると、有効期限が右下に小さく書かれていた。  有効期限:20XX年12月25日  しばらく沈黙していたトランシーバーから、『そういう事にしといてやるよ』と聞こえてきた。
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