7人が本棚に入れています
本棚に追加
『引っ張れぇぇ』
親方の合図と同時にレバーを力一杯引く。奥歯を噛みしめて、腕が震えるほど力を込めるが半分までしか動かない。まるでレバーと腕相撲をしているようだ。
……クソ、動けよ。
歯が砕けたって構わない。腕が千切れたって構わない。最後なんだ。
全身から汗が噴き出して、レバーを握る手も滑りそうだ。
……もう、駄目だ。
限界。その言葉が頭をよぎった。
『若者はだらしないな。もうお仕舞いか?』
トランシーバーから声が聞こえた。その瞬間、ぴくりともしなかったレバーが軽くなった。
「鈴木……さん?」
『やっぱり僕達がいないとね』
『こうなる事も想定内です』
「初台さん? 西さん?」
運転席のドアがコンコンとノックされる。窓の外には本多さんがいた。
「選手交代だ。今回のデッドライン役はお前だろ?」
僕は呆然と本多さんを見つめた。
「どうして?」
「つべこべ言わずさっさと降りろ、新米!」
トランシーバーを上着のポケットに差し込んで、本多さんは無理矢理僕を引きずり出した。僕は状況が飲み込めずに、クレーンの足元に尻餅をついた。
『お前らぁ! なんで戻ってきた!?』
上着のポケットに突っ込まれたトランシーバーが怒声を伝える。
『親方、航空券の日付を確認しました? 有効期限が切れてましたよ』
僕は慌ててポケットを探る。グシャグシャになった航空券を開いて中を見ると、有効期限が右下に小さく書かれていた。
有効期限:20XX年12月25日
しばらく沈黙していたトランシーバーから、『そういう事にしといてやるよ』と聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!