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「瑞穂ちゃんっ」 「軛、戻れっ」 祭の制止も聞かず、果敢にも真っ先に蔦の中へ突っ込んで行ったのはウォーカーだった。柔軟性の高い身体で器用に蔦草を掻い潜り、ちらりと見えた人影へと接近する。 緑の女はそんな彼に見向きもせず、アトリエの前に陣取り大きく腕を広げたまま残る二人を見下ろす。瞳には怒りの色が見て取れ、最初に絵で見た際の、ぬめりとしたおぞましさは無い。 ウォーカーの身体に絡み付こうとする蔦は、援護に回るジョーカーがカードを使って退けていたが繁茂する勢いに押し負け、直ぐにその姿は緑の中に飲み込まれた。 絵の女が、ほくそ笑む。 まるでお前逹では相手に成らないと言う様に。 仲間を目の前で奪われ、焦りを露にカードを投げる手を止めるジョーカー。自らも蔦草の海へと飛び込もうとするその肩を祭が掴む。 「軛なら何とかするだろう。まやかしも多い。焦って騙されんなよ」 諭す声に振り向いた帽子の下の瞳が大きく見開かれ、本当なのかと問い掛ける。 この状況下でもジョーカーは一言も発しない。 鬼呼びの声を出せば、辺りの霊を呼び寄せてしまう。状況が更に悪化するからだ。 「どうも須藤みたいに気配やら何やらに敏感過ぎて、まやかしは苦手みたいだな」 せわしなく、木の根や蔦草を退けながら問われて頷く。 しなやかにうねる蔦は動きを絡め取ろうと群がり、鋸状に裂ける葉の縁は鋭く肌を切り裂いた。細かな切り傷、打ち傷ばかりが二人に増えて行く。疲労が増し、血が滲む。 指摘された通り、研ぎ澄まされた感覚は時に自らを迷わせる。本物と偽物が同じ気配をまとって押し寄せる中では一々選り分ける事は難しい。 そこへ屋敷の中から駆け付けた須藤が、絡み付く蔦をものともせずに引き千切りながら合流して来た。 「おっせえよ、須藤。腕が落ちたか」 「口よりも手を動かせ」 身体の横に両腕で輪っかを作り、目で合図する。 合図よりも輪っかをを見た際に、祭はもう自分の影から何匹もの狐を呼び出していた。それらが次々と、須藤が作る腕の輪を潜り抜ける。 途端に不思議な事が起こった。おぼろな影で出来た狐に、淡いが色彩が付いたのである。 「これだけか」 「御天道様が、真上に有るからやり難いの」
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