ヘマ

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神妙な顔付きの火縄は、俺の異形化して行く左手を見ながら告げた。庇われた事で俺を信用するか。単純つうか、噂と違って優しいな、この男。 「火縄さん、あんた気付いているか? 呪っているのは一人じゃない」 頷き返す顔は、今、それが確信に変わったと言っている。どうやら面倒臭さは、うっすらながら感じ取っていたか。 「呪いを返す為に護摩を焚いても、術があまり効きません。絵に掛けられた術も強いものですが、更に何か別の力が絵に有る術を守り、歪めている様です」 誰かに守られる呪いの絵ね。真っ先に思い浮かぶ事が有る。烏の件が怪しいよな。 「相手、分かる? 烏を扱う奴とか」 「いいえ。大烏の様に歪んだ命は、私の様な左道者には扱い易い素材なのです。そして同じ事を行う術者は多い」 確かにこいつも使ったのは、烏の血に、羽だな。 もう一度、鈴木さんに会うか。三笠さんを妬んだ連中に、件の手相見を探らなきゃあな。二日の間に調べた事だけじゃ、分からない事の方が多すぎる。 緑の女の絵を睨む。 女は静かに両手を広げ、笑っていた。 アトリエを出た途端、火縄が神妙な顔付きのまま俺に耳打ちした。 「屋敷の外に出ませんか?」 「ここも、お外」 茶化すと、台詞を言い直す。 「敷地の外に出ましょう」 俺も一緒に出ること確定ね。何か気になる情報でもくれるみたいだな。 俺達の職業の悪い所、その一。自分が掴んだ情報は、簡単に他者へ与えない。 目的が違うのが、ちょいちょい混ざり易い仕事でも有るからよ、信用され難いんだわ。 下手をすると、仕事を頼んで来た御本人さへ疑って金を出さなくなる。だから俺は前金を頂く。 茶化しを無視し、火縄は下草の生え伸びる庭を突っ切って門の外へ向かう。 可能性として術が屋敷の建つ敷地全体に掛けられているなら、外の方が緑の女にも感づかれ難いって事からの配慮かね。しかし、三笠さんの話じゃ屋敷の植物も動くって言われてたが、今は不気味に大人しい。お出迎えは強烈だったのにね。 夕映えの中、一度歩いた桜並木を逆向きにたどる。 一キロ程も離れた頃、火縄が口を開いた。 「同じ外法だから分かるんですよ」 「へえ、絵の女を守っているのも外法」
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