埋もれた家

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眼鏡って鼻の頭痛くならない? 耳とかも。 俺は今、仕事で良くする真面目な格好のまま一軒の鍼灸院の前にいた。 夜の七時を過ぎ、とっぷりと日も暮れている。 鍼灸院の扉を開き、中へと入って行く。 室内は明るく、まばらだが患者の姿も見受けられる。 ここは二十四時間体制で経営している、ちょっと変わった鍼灸院だ。 「大福、お久し振り」 受け付けのカウンター越しに、見知った顔に声を掛ける。 ぷくぷくの体を揺らし、奴はお決まりの文句を吐いた。 「ボクは大黒だって、雲っちゃん」 大黒政輝。アルビノに産まれ付いたが為に、やたらと色白餅肌で眼は日本人の癖に薄青い。人間の色素欠乏って、猫と一緒で青目になるんだな。俺はハツカネズミみたいに赤くなると思っていたんだがよ。 まあそのお陰か、ぽっちゃりな体型も相まってこいつには大福と言うあだ名が相応しい。 こいつの好物でも有るんだが。 「まあまあまあ、これでも食いながら」 早速、並んで買って来た大福餅を差し出す。 ここらじゃ行列が出来る、ちょっとした有名店の品だ。 小振りな、こしあんを包んだ豆餅と粒あんを包んだ草餅。どちらも焼き目が入る為に香ばしさも有る。それに豆餅の方は塩味を少し効かした豆を使用しているからか、結構幾つでもいける。焼き直して温めると、甘味が引き立ち餅も柔らかくなって、なおさら美味い。 「やった。幸福堂の万年餅じゃないって、雲っちゃん又厄介事」 差し出した菓子折を手にして、大福は嬉しそうに顔を輝かした後、曇らせる。 「調べモンだけだよ」 「何処?」 「K県T市に有る土地。何か埋まってる」 「そうなの」 「ただし規模がデカイ。何時もの針で頼むわ」 「お餅だけじゃ、やだな」 好物を並んでまで買って来たってのに、駄々をこねる。 「じゃ、今からホット&スパイシーのパフェで良いか」 「乗る」
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