埋もれた家

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微妙に異なって聞こえるのは、弾き方を変えているせいか。 十数回余り弾いた後、分かったよと大福は口の形だけで告げた。 そうなれば、もうこいつを付き合わせる理由もない。後はホット&スパイシーか大黒鍼灸院で、埋まっている物の見取り図を書いて貰えば良い。 も、さっさと帰りましょう。 大福も仕事を持っているからな、余り長く付き合わすのも悪い。 「何か今回のは、本当に面倒臭そうな仕事だねえ」 カリカリと、新聞広告の裏に図面を書き込みながら大福が言う。 場所は大黒鍼灸院の事務室。 言われなくても分かっている。幽霊に仕事を依頼されるなんざ初めてだし、聞いた事もない。 しかし、描かれたもんを見ると面倒臭さはひとしおだ。 何だよ、これ。 まるっきり、屋敷の見取り図じゃないか。今、上に建っているのとは少し違う間取りだがよ。 「何で、家が丸ごと埋まってんだよ」 「さあねえ、ボク知らなあい」 豆餅を口に運びながら、大福は我関せずと呑気な声を上げる。 「でもさあ、なんかここ、怪しいよ」 コンコンと、図面の中心部分を叩く。 玄関部分になるか。いや、階段の上? 「ボクの感覚だと、しこりみたいな物が有るよ」 「しこり?」 「雲っちゃんの仕事だと、呪物が有るんじゃない」 「へえ」 こいつの調べ物は精度が高い。なかなか良い情報だ。 手相見の行方は探れなかったが、こっちで呪いを掛けている奴の正体を掴めそうだな。 「んーとね。後、もう一つ」 「何だ」 「敷地のこっちの方。地下の屋敷に出入りする場所が有るよ。探してみて」 ふうむ、須藤が言っていたマンホール程の穴の事かな。別物かも知れんが。 大福は三つめの万年餅を口に運び、緑茶を啜っている。 こいつ、一人で一箱食っちまうな。 さて明日、まあ日付的には今日になるが、朝早くから甲斐家に赴くとするか。 主の四郎児にゃ、問い詰めたい事が二つに増えたしな。黒川の事と、埋まっている屋敷だ。 狡猾って面じゃないからな、強気に出れば直ぐ吐くさ。
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