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残暑は厳しいが秋晴れの空は青く澄み、風が吹けば心地好い。
しかし甲斐家のある丘付近は、何処かどんよりと霞んで見えていた。
頼まれた物を買い出しに行っていた鬼怒軛こと、サイレント・ウォーカーは寡黙な相棒に愚痴をこぼしている。
返事が無いのは分かっていても、一言、物申し上げたかったのだ。
「須藤もさあ、要るものが有るなら昨日の内に買いに行けばよかったんだよ。こんな朝早くからじゃコンビニ位しか開いていないって」
不思議な事に、沢山の装身具で身を飾っているのに物音が一つもしない。しなやかな体の動きが、アクセサリーの揺れを抑え音を消しているのだ。ただ、彼の声だけが静かな道路上に響く。
隣では、ジョーカーが相槌を打つのみ。靴音はさせても、声は一言も漏らさない。
二人の手にしたビニール袋には、懐中電灯、細い麻のロープ、水のペットボトル、簡単に栄養補給の出来る携帯食料等が入っている。後は何処で買ったか、ツルハシを一本ずつ持つ。
簡単な登山にでも行く様な、数々の物資であった。
「やっぱ和森さんに、帰りの車も出して貰うんだったかな。タクシーの人も、こっちには余り行きたくないって途中下車させられる……」
なおも愚痴る声が、尻切れトンボに掻き消える。
目配せをして見せると、ジョーカーはクローバーの十三のカードを手の中に出す。
「奴等のご馳走にはなりたくないよ」
青空の一角に、黒い点々が見えていた。それは見ている間に大きくなる。
「昨日のと違って、大きいのかぁ」
上空に見えていた黒点は、巨大化した化け烏の群れであった。
数は、ジョーカーが示した通り十三羽。一番小型の化け烏でも、人が両手を広げたよりも大きな二メートルの翼長を持つ。最大のものは七メートル越えと、最早翼竜まがいが二羽。
「昨日のは死霊憑きだったけれど、今日のはどうかな?」
隣の人物が答えなど口にしないと分かっているのに尋ねてみる。
だが、行動では示す。
右手にさあっと、扇状にトランプ・カードを広げて見せた。
昨日、大量の烏と一戦交えた時と同じ行動だ。
「うわぁ、また死霊憑きか」
呻きに無言で頷き返される。
その穏やかそうな瞳に、剣呑さが垣間見えた。
左手がひらめき、一枚のカードが有らぬ方向に投げられる。
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