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「呪いをか」
「いや、碧さんを守る為の術だ」
「どういう訳だ」
「俺が知るかよ」
目を細める祭は、自分の考えを素早く頭の中でまとめている様子だ。
「祭」
咎める様に須藤がその名を呼ぶ。
「くそったれ」
返事の代わりに悪態を吐いた祭は、机の上のチラシを乱暴に手に取り四郎児の元に戻る。
「四郎児さん、設計図だ」
有無を言わせぬ硬い声と表情に気圧され、四郎児が無言で設計図を渡す。蒼子が夫の肩を掴んだ手に力を込めた。
「祭」
須藤がもう一度、祭を呼ぶ。何を考えているかは分かっていた。この男は影渡りを行うつもりなのだ。二つの図面を見比べ、確実に同じ間取りとなる場所に狙いを付けている。
しかし、それはリスクの有りすぎる行動だった。
影渡りで何も無い場所に出られるなら良い。そこが暗闇に閉ざされているならば、彼は行く事が出来る。だが今、影を渡る先が土くれに埋もれているとしたら、祭は土の中に生き埋めとなり二度と戻る事は無いだろう。
行き先の状態が分からないまま行うのでは、影渡りは危険の伴い過ぎる術だ。
「祭」
三度名を呼ばれて、やっと祭は須藤を見た。表情は不機嫌そうに歪んでいる。
「須藤、昔馴染みだからって、俺の行動を邪魔するなよ」
「危険だ」
「祭さん、須藤さん」
四郎児の声が響く。
振り向けば、この屋敷の主は肩に置かれた妻の手を硬く握り締め、祭と須藤を大きく見開かれた目で見ていた。妻である蒼子の目も見開かれている。
「一つ、どうしても言えなかった事が有ります」
その声は震えていた。
「これは家の恥になると思って誰にも相談出来なかったのですが、私の一人目の妻、碧は遺体の一部を盗まれているのです。それと今回の事柄は関係が有るのでしょうか」
四郎児の言葉を聞いた途端、アヤカシ事を仕事にしている二人の脳裏には同じ呪物に対する知識が浮かんだ。
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