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「さっさと解く」
見事に命令口調なうえ、声は震えてもいない。
悔しそうに下唇を噛む和森が、ヒーラーの手を自由にすると彼女はその手で自らの足をも自由にし、叱り付ける調子の声に怯えて固まった瑞穂ちゃんを優しく抱き込む。
「ごめんね、怖かったよね」
うん、女の子らしい優しい声。
俺はその間無言で、ゴリゴリ、ゴリゴリ。
和森はしくじったが故に、俯いた顔を青ざめさせつつも額に血管を浮き上がらせている。
「碧さんの手はどこ?」
「分かっているんだろ」
こっちはふて腐れた声。
ふうむ、やはり予想通りか。
「じゃあ、質問を変える。絵の力を利用したのは何故だ?」
「黒川の能力は本人には全く制御出来なかった。それは純粋な力であり、純粋故に手を加え易かった。呪物としての素地には実に都合が良い物でなあ」
ゴリッと銃身を押し付ける。答えになっていないんだよ。
「で、何故絵の力を歪めた」
「……碧の手は誰にも渡さないっ」
叫ぶと共に和森は立ち上がり、ヒーラーの腕から瑞穂ちゃんを奪って駆け出す。
なりふり構わずの行動に不意を突かれ、俺の反応も遅れた。
くそっ。瑞穂ちゃんを盾にされるだろうから、この先銃なんぞ使えない。
「ヒーラーだったよな、お嬢ちゃん」
「はい。仕事中は、その名で呼んで下さい」
強張った表情のヒーラーに、手にした銃を差し出す。受け取り、素早く弾の残数を確認した彼女は、一つも残らないと見ると溜め息を吐く。
弾切れだったんなら、どちらにしろ和森は撃てなかったのか。
ヒーラーは空の銃を太股に有るホルダーに収め、硬い声で告げた。
「追いましょう。影絵師」
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