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一台の乗用車が、少しきついカーブを曲がっている。
セダンタイプの普通車だ。
そのカーブを曲がりきったところに段差があった。
車はそれを避けず、段差を踏んだ。
ガクンと跳ねる。
車内は大きく揺れた。
「すまない。今のは大きかったな。大丈夫か?」
運転手が、隣に座っている者に、前を向いたまま声を掛けた。
いま走っている道は、一見すると直線だが、実は緩やかに蛇行していて、気を付けないと対向車線へはみ出してしまうからだ。
といっても、すれ違う車など皆無なのだが。
「なに、いつものことだろ? 気にしないよ」
運転席のとなり、助手席に座っている人が答える。
この人は本を読んでいる。
その本から顔も上げずに、ぶっきらぼうに答えた。
「なんだい。いくら私の運転が下手だからって、そういう言い方はやめてくれないか?」
運転手が反論する。
「事実以外の何? 言ったことは事実さ」
相変わらず顔を上げない。
「文句あるなら自分で運転したらいい」
といいながらも、運転手は車を停めない。
車に乗っているのはこの二人だけ。
後部座席には荷物が溢れんばかりに詰め込まれている。
バックミラーには、リアガラスではなく、荷物が写っている。
後ろの様子はミラーからは確認できない。
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