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記録を終え、ノートをしまった。
運転手が胸ポケットから運転免許を取り出す。
ドア横の読み取り部にかざすと『ポーン』という小さい音がした。
自動車による悲惨な事故が相次いでいた頃。
自動車各社が安全装置として、免許証を認証させないと車のエンジンがかからない仕組みを開発したのが、今から10年前のこと。
そして、その2年後には、『免許証を認証させないとエンジンがかからない』システムを全ての車に取り付けた。
それにより、自動車による悲惨な事故は激減した、という実績もある。
そのシステムは全車標準なので、例外なくこの車にも付いている。
免許を認証させてから、クラッチを踏み込み、セルを回した。
エンジンがかかる。
「しかし、免許を認証させないとエンジンがかからない仕組みなんて、画期的なものだな……」
運転手が免許を眺めながら言った。
『月見里 皐』。
免許に書かれているこの名が、運転手の名前だ。
本籍地は勿論空欄。
住所は、広島市内の番地。
有効期限は近い。
彼女の場合、所持品の顔付き身分証は全てこの名前だ。
顔写真もほとんど同じで彼女に違いない。
なので、六木がなぜあの様な状態なのか、原因は分からない。
しかし、発想は逆転できる。
二人の近くには他に誰もいないため、わからないだけで、逆に皐の方がおかしいのかもしれないのだ。
これを調べる術はない。
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