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明由美が振り向く間もなく兄、改斗(かいと)が滑り込むようにして前に回り込んだ。
少し躊躇(ためら)って、明由美はテスト結果を見せる。一瞬改斗の顔が虚を衝かれたように固まったが、妹の不合格を知ると、苦笑の中にも万遍な笑顔を作って自分の結果も見せてやった。
『魔力値――二百九十 合格 操術値――二十/百 不合格』
妹とはまるで正反対のこの数値は、改斗がいかに魔力という才能に恵まれ、いかに努力という忍耐を習得していないかがはっきりと記してある。いや、努力で補えるといっても、操術値は理論的に理解、構築して感覚で操作することが要求される値だから、これも一種の才能が必要なのかもしれないが、それにしたって改斗の操術値の低さは目に余る。
生徒たちは改斗のことを宝の持ち腐れ、と冗談交じりに皮肉るほどだ。
「お兄ちゃんも駄目だったんだ……」
明由美がまた落胆した。入学した当初はまだ目覚しい成長を遂げていた明由美も、もう二年、ずっとこの調子。最低どちらかが召喚士になることを目標としているだけに、ショックは大きい。
こんな現状に、明由美は口から出る弱音を抑えることができなかった。
「どうすれば、いいのかなぁ? いくら頑張っても変わらない。どれだけやっても操術ばっかりうまくなって、魔力は上がらない。やっぱり生まれながらにない人は、駄目なのかな……」
言いながら、胸に申し訳ない気持ちが広がって、涙がこぼれそうになってくる。無理を言って兄についてきたのに、これでは意味がない。何か力になりたいのに、結果が出せない。何もできない自分に腹が立つ。
「ごめんね、お兄ちゃん。役に、立てなくて、ごめんね……」
明由美は溢れそうになる涙を堪え、俯いた。
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