ハジマリの夜――prologue

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――あたしが飛んだ後の彼のことなんて、考えてなかった。 塞き止めていた決壊ギリギリの切なさが、ブツリブツリと音を発てて、千切れていく。 そうなれば緩んだ唇は、たちまち情けない声を垂れ流す。 もがいて漂う、シーツすら掻けない足。 昂ってるのか戸惑ってるのか、馬鹿みたいに跳ね上がる心臓。 抱え上げられた不自然に折れる肢体に、珠の汗が吹き出す。 本当はもう、結構前からとっくに限界で。 ――早く、 早く、早く。 だけど、それがあっさり言えるほど、あたしは可愛いオンナじゃなくて。 それをすんなり求め合えるほど、あたしたちは残酷になりきれなくて。 崖っぷち、手前。 何度も真っ白な火花が睫毛の先でチカチカと散る。 「あ、……あ、やだ、やだ、」 うわ言のように酸素を吐き出して、ぶるりと身震いするあたしに、 「それ、演技?」 眉一つ歪めない、目の前の男。 ――ああ、ムカつく。 あたし、こんなに苦しいのに。 こんなにせつないのに。 そんな涼しい顔で、見下ろさないでよ。
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