第1話

5/8
前へ
/9ページ
次へ
「意地張らないで」 「……っ、どういう……」 意味、と続けたかった言葉は、眉間に刻んだ皺を撫でるセンセーの指の感触で引っ込んだ。 臆病だから。 確信がないと、口に出来ない。 言ったら最後。 もう二度と、会えなくなるかもしれないから。 ふっ、と、小馬鹿にしたような嗤いが降ってきた。 「怪我なんか口実にしなくたって、来たけりゃ来ればいい」 くるりと椅子を回転させて背を向けた、センセーの顔は見えず。 さっきまでの妖しい雰囲気は、一瞬で消えた。 俺の、妄想か。 ……っぶね、1人で興奮して。 ちょっと、いや、かなり。 今、ヤバかった。 「怪我もないのに病院くる理由って、何」 不機嫌が声に出た。 俺の気持ち、気付いてて掻き乱してんなら。 相当なSだ、このヒト。 それでのぼせ上って、ぶつかって拒否られてとか、やってられっか。 「理由ね。例えば……」 センセーが指したカレンダー、休診日のはずの金曜日には、看護婦が書きいれたのかピンクのペンで『バレンタイン』の文字。 ご丁寧にハートマーク付き。 ……何ソレ。 苛々する。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加