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「意地張らないで」
「……っ、どういう……」
意味、と続けたかった言葉は、眉間に刻んだ皺を撫でるセンセーの指の感触で引っ込んだ。
臆病だから。
確信がないと、口に出来ない。
言ったら最後。
もう二度と、会えなくなるかもしれないから。
ふっ、と、小馬鹿にしたような嗤いが降ってきた。
「怪我なんか口実にしなくたって、来たけりゃ来ればいい」
くるりと椅子を回転させて背を向けた、センセーの顔は見えず。
さっきまでの妖しい雰囲気は、一瞬で消えた。
俺の、妄想か。
……っぶね、1人で興奮して。
ちょっと、いや、かなり。
今、ヤバかった。
「怪我もないのに病院くる理由って、何」
不機嫌が声に出た。
俺の気持ち、気付いてて掻き乱してんなら。
相当なSだ、このヒト。
それでのぼせ上って、ぶつかって拒否られてとか、やってられっか。
「理由ね。例えば……」
センセーが指したカレンダー、休診日のはずの金曜日には、看護婦が書きいれたのかピンクのペンで『バレンタイン』の文字。
ご丁寧にハートマーク付き。
……何ソレ。
苛々する。
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