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花を供え、手を合わせた。いつもならこれで帰るのだけど、今日は少し、話を聞いてもらいたくて、私は墓石の前に立ったまま一人で話し始めた。
ねえ沖田さん。私、今日友達の男の子にキスされそうになったんです。びっくりしました。以前、一度告白されてお断りしたら、友達でいいからって。そう言ってたんですけどね、あんなことしようとするんだなって。でもあの時、香奈恵という女の子が言う、そういう雰囲気、という言葉の意味が少しわかりました。初めてああいう場面に遭遇したので、驚きはしましたが、嫌だなとは思いませんでした。私も単純ですね。
ただ、あの瞬間、ふとあなたのことを思い出しました。十年前の七月十九日のことです。今と同じくらいの時間帯です。あの日も今日みたいなすごく綺麗な夕焼けでした。この近所に住む友達の家で遊んだ帰りに、たまたま、ここの前を通ったんです。好奇心で、ふと中を覗いてみると、ちょうどこのお墓の前に、項垂れるようにだらりと座り込み、小さな桃の花が枯れている枝木を持ち、じっと見つめている人がいました。夕日に照らされて、それはそれは美しくて、顔は見えなかったですが、一瞬で心奪われました。瞬きをした瞬間、その人の姿は無くなっていました。
あなただったのでしょう?沖田総司さん。あの日から、私はあなたのあの姿が脳裏に焼き付いて離れません。
この前、香奈恵に連れられ、未来が視えるという占い師の老人に見てもらったんです。帰り際、香奈恵に聞こえないように、はっきりと、こう言われました。「刃物に気をつけなさい」って。私、通り魔に遭ったりして、なんて思ったり。あ、信じきってるわけじゃないんです。仮に、半年の命だったとしたら、私、本当に好きな人と恋がしてみたいんです。
なんか寂しくなってきました。やだなあ仮の話なのに。
ねえ沖田さん。やっぱりあなたじゃないと駄目なんです。
こんな私は、どうすれば
ふわりと温かい風を感じ、視界の隅で人の影が見えた。ああ、誰かに聞かれてしまったか、恥ずかしい。そっと振り向くと、真っ赤な夕日を背に、十年前に見たあなたが立っていた。
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