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午後の講義を終え、キャンパスから出る頃には、日差しも弱まり過ごしやすい気温になっていた。ふわっと風を感じ、ああ、もう秋なんだなと、季節が過ぎて行く早さに少し侘しさを感じた。今日は一人で帰っているからだろうか。
私は大学入学を機に、大学から徒歩十分程の場所にある賃貸マンションに移り住んだ。特にホームシックになったこともなく、一人暮らしを漫喫している。はずなのだけど、今日はなんだか、少し寂しい。
帰宅するなり、教科書などの重くて邪魔な荷物を置いて、財布と携帯とゴミ袋を小さめの鞄に突っ込み、家を出た。
月に一度、決まって向かう場所がある。電車を乗り継ぎ、駅を降りて、近くの花屋でピンクの花を一輪だけ買い、目的の場所へと歩く。空がオレンジ色に染まる頃にぴったり時間を合わせて。
「こんにちは」
墓石の前で挨拶をし、散らばった古い花びらなどを拾う。
「本当は、桃の花が良いのだけど」
そう独り言を呟いて、新しい花を供え、手を合わせ、いつものように長居はせずに敷地から出たところで、携帯が鳴った。
「葵!」
駅の出入り口で香奈恵を見つけた。電話で、行きたい場所があると呼び出しをくらったため、電車で一時間もかけてやってきた。
「どうしたの急に……なんか、何にも無いとこだね、ここ」
辺りを見回すと、街灯も少なく、人通りもほとんどない。一体こんなところに何の用事が、と思っていると、香奈恵はにこにこして私の手を引いた。
他愛も無い会話をしながら、二十分程は歩いただろうか、ある古民家の前で立ち止まった。表札の下には『占い』と書かれた木の板が紐で吊るされていた。
「占いって……」
「ここね、密かに当たるって噂になってんの!」
「香奈恵こういうの信じてなかったんじゃ」
「いや、そうなんだけど、ここはマジで視える人っぽい」
目を見開いてそう言う香奈恵の後ろでガラリと扉が開き、大人と子どもが二人ずつ出てきた。母親らしき女性は眉にしわを寄せ、不機嫌な様子だ。
「何なの、本当失礼しちゃう!」
「まあまあ姉さん、椿ちゃんはああ言われちゃったけど、桜ちゃんは良かったじゃない。それに所詮占いなんだから、助言を聞いて、気をつければいいだけのことよ」
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