1人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやら、片方の娘は、あまり良くないことを言われたらしい。そう、所詮占いなんだから、そんなに間に受けなくていいのに。
「さっ、あんたの番だよ!」
「え、はあ!?」
背中をぐいぐいと押され、民家の中に入ると、一番奥の扉の前に立った。
「香奈恵が見てもらうんじゃなかったの!?」
どうぞ。扉の向こうから聞こえたしゃがれた声にびくりとして、引き返すことも出来ず、仕方なく扉を開けた。
必要最低限の家具しか置いていない殺伐とした部屋で、丸い木のテーブルの向こうに座る老人は目を瞑っていた。赤い座布団の上にそっと座ると、老人は言った。
「二人ともかね」
「いえ!この子だけでいいんですが、私は保護者みたいなものなんで、一緒に聞いていいでしょうか」
何で私の許可は取らないのよ。香奈恵は、じっと見つめる私を無視し、老人が頷くのを確認してから話を続けた。
「前世や未来が視える方だと聞いて来ました。彼女、恋愛をしたことが無いんです。もう十年も故人に片思いしてるんです。このままずっとこの状態なのかと思うと心配で……あの、ちゃんと生身の人間と恋出来るんでしょうか、大体いつ頃会えるかとか分かれば、安心なんですけど」
お節介だと言わんばかりの発言に、苦笑いした。何で香奈恵はこんなに焦っているんだろう。私まだ二十歳だよ。全然大丈夫じゃん。あれかな、毎月身内でもない人のお墓参りしてるのがそんな変なのかな?でも、私が好きなのは彼だけなんだもん。
「ああ……なんてことだ」
「!」
老人は悲愴な表情で私を見つめていた。少しの沈黙が流れ、私は、老人の真っ黒な瞳から目が離せずにいた。なんだろう、この異様な感じは。本物ってこういうものなの?
「あ、あの……どうですか」
微動だにしない私の代わりに、香奈恵が口を開いた。老人は瞬き一つせずに私を見続けながら、こう告げた。
「お前さんの願いは、叶う。あと半年、精一杯生きなさい」
帰り道、私たちは会話も無く駅に向かって歩いていた。たぶん、香奈恵も私と同じことを考えていると思う。老人の言った意味を。
正直、自分の願いって何なのかわかってない。強いて言えば、両親の健康とか?それくらいで、自分でもびっくりするくらい欲が無い。
最初のコメントを投稿しよう!