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比較的裕福な家庭で、子どものころから欲しいものは言えば買ってもらえたし、勉強もスポーツもそこそこやれて、行きたい大学にも進学できて、香奈恵というずっと仲良しの友達もいる。あればいいと思ったものは、自然と手に入れてきた。
だから、今、願いなんてものは特に無いはずなんだけど。
それよりも、あと半年精一杯生きろという言葉が気になって……
「ねえ、香奈恵。もしかしてさあ、私……」
「なんかよくわかんなかったね!」
私の言葉を遮るように笑ってみせる香奈恵は大きく背伸びをして、すっかり暗くなった空を見上げ、「所詮占いだよ」、そう呟いた。
翌日、いつものように大学へ行くと、いつもの元気な香奈恵が、後ろから肩をポンと叩きながらおはようと声をかけてきた。
一限の体育がダルい、男の体育講師の贔屓すごいよね、なんて盛り上がりながら体育館へ向かっていると、また後ろから肩を叩かれた。
「一瀬さん」
振り返ると、見覚えのある顔があった。すぐに思い出すと、香奈恵は察したように、先に行ってるねと去っていった。
「昨日の……えっと……」
「真野です」
「あ、はい、すみません……」
「いえ」
昨日のことなのに、名前すら覚えていない振った男とこうやってまた対面するとは思ってもいなかった。ものすごく気まずい。精一杯の笑顔で微笑み、どうしたのかと聞くと、彼は照れくさそうに私を見た。
「あの、連絡先交換してくれないかな」
「え」
「僕のこと、全然これっぽっちも興味無いことはよくわかってる!好きになってくれとは言わないから、その、友達になってください!」
声を大にして懇願する男は周りの注目の的で、まるで、どこぞのテーマパークの城の前でよくやっている、個人的イベントのようになっている。恥ずかしさのあまり、ろくな返答もせず、手帳のメモページを破り、殴り書きで自分の電話番号を書き渡すと、走ってその場から逃げた。
「健気な子!!」
一限終了後の更衣室で、香奈恵は、おいおいと泣く真似をしてみせたと思ったらすぐに真顔になって、私の両肩を鷲掴みにして迫ってきた。
「いいと思うよ真野くん」
「何が」
ぺいっと香奈恵の手を払い除け、ジャージを脱ぎ捨てた。
「いやいや。まあ進歩だよ、男に連絡先教えてあげただけでも」
「友達でいいって……」
「うんうん」
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