第一話

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「……」  機嫌良く話す香奈恵を尻目に、何をそんなに期待して、と、ロッカーから自分の服を取り出した時に、胸の辺りがチクリとした。その場所を指でそっと押してみたけど、痛みはない。 「また痛むの?」 「一瞬ね」  中学生の頃からだったか、たまに胸のあたりがチクチクと痛むことがある。毎年学校で行われた健康診断で見てもらってきたけど、毎回異常は無いと言われるので、あまり気にしてはいない。稀に、息をするのが辛いくらい痛む時だけは、ちょっと勘弁、と思う。  真野くんに連絡先を教えた日から三日が経った。全く連絡が無い。電話番号間違えて書いたかな?なんてちょっと心配になっていると、すかさず香奈恵が「気になってんの~?」と茶化してきた。  今日の二限は講義が無いので、キャンパス内の図書館へ行くことにした。静かな空間で落ち着く場所の一つ。いつも見ている新選組の資料を取りに行くと、ぽこぽこと空間があり、目当ての本が無かった。誰か借りちゃったのか。仕方ないから、たまには他の本でも読もうと、ふらふらと棚を見て回ると、一冊の本に目が留まった。 「愛するということ……」  手に取り、タイトルを読み上げる。ふと、占い師の老人を思い出した。私が変わる努力をすれば、半年後、運命が変わったりするのだろうか。  あまり目につかないような隅っこの席を探しに行くと、一箇所、良さそうな場所があった。男子学生の斜め向かいだけど、本を何冊も積んで熱心に勉強してるみたいだから、これを読んでてもジロジロ見られることはないだろう。  そう考え、席につこうとして固まった。 「ま、真野くん」 「え?わ、わあ!」  顔を上げて私に気付くと、真野くんは慌てて机の上の本を隠すように両手でかき集め覆いかぶさった。腕の隙間から見えた本のタイトルに気付いた私に、彼は顔を赤くして「バレた」と小さな声を発した。  真野くんが頭を掻き、降参したように腕を退けると、『新選組』『土方歳三』『幕末』などの単語が目に飛び込んできた。   「……そこ、座ったら?それ、読むんでしょ?」 「え?あっえっ」  まじまじとそれらの本を見ていると、手に持っていた本を指差され、慌てて後ろに隠し、そろりと椅子に腰掛け、そっと隣の椅子の上に裏返しにして本を置いた。
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