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『これはあなたにしか出来ない事よ。あたしが囮になるから、あなたは出来るだけ遠くへ行くのよ?良い?』
その日は雨だった。
数時間前、彼女からそう言い聞かされ、別れ際に優しく抱き締められた。
ふわりと、甘く優しい香りの残滓が未だ微かに残っている。
少女は夜の街を疾駆する。
彼女から託された“モノ”を失わないように、ただ、走る、走る、走る。
足の感覚は既にない。
足がもつれて転びそうになるのを必死で堪えてただ夜の街を駆け抜ける。
今は何時頃だろう。
あたりはすっかり暗いが、ネオンが闇を切り裂いて街はまだ明るい。
人の姿が疎らなのを見ると午後十一時頃といったところか。
そんな事を考えている間も少女の足は休みなく走る。
奴等が来る。
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