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「いい加減にしなさい。婚約者なんかいないでしょ。私達は会ってもいないんだから」
冷たい声の主は、ゆらりと怒りのオーラを纏う母。
小さな頃のトラウマで、母の威圧的な声色を察知すると、私の心と身体を縮こまる。
「総一さん…お義父さんの立場を悪くするつもり?
今まで育ててきて貰った恩も忘れて…そんなこと許さないわよ!
それに何が不満なの?
あんたなんて、綾ちゃんに比べたら、何の取り柄もないのに、こんな良い方に見初められて…」
「お母さ…ん…あたし…!」
こんな時に、溺愛する異父妹の綾ちゃんをまた引き合いに出し、私を蔑む母。
私は懸命に首を横に振って意志表示をするけど、母の眼差しは揺るがない。
「横山さんのご両親がお待ちだわ。ほら、行くわよ」
「待っ…待って!お願い!」
今度は私が縋るように懇願する。
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