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「…横山君も、元気にやってるかしらねぇ」
麻子さんが遠い目で呟いた。
「もう~!麻子さんってば、何で、あんなバカ孫の心配してるんですかぁ!」
ぷぅっと頬を膨らませて、寧々ちゃんが麻子さんを非難する。
「ごめんごめん。でも、ちょっと気になっちゃって」
「大丈夫だろ?あのふてぶてしい性格は、早々治らねーよ」
古賀主任が頬杖をついて、悪態をついた。
こんなこと言っても、古賀主任も元部下の行く末を案じていると思う。実を言うと、私も……
横山君は、種明かしの次の日、退職願を提出した。媚を売りまくっていたゴーマン寺野課長は、凄くうろたえていたけれど。
急な退職に、皆は一様に驚いていたけれど、横山君がすでに横山新之助の孫だと知れ渡っていたので、後を継ぐ修業をするためだと言えば、誰もが納得したようだった。
そして、横山君は最後の別れ際『ふー、ごめん…』と私に囁いて去って行った。
私は、ただ静かに、去りゆく彼の後ろ姿を見送るだけだった。
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