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空の彼方へ *Side:M* #2
そして、僕自身が辛かった。
総一が結衣子に未練があるのを解っていて、僕は結衣子と結婚した。だから、もともと恋人同士だった二人が再び惹かれあっても、仕方のないことだと思っている。
しかし、二人の未来を肌で感じながら死んでゆくのは、さすがに耐えられそうにない。
結衣子を愛しているから、彼女の幸せを願う反面、自分のものであってほしいという願望も消えないのだ。
僕たち三人は、ずっと、こんなジレンマをそれぞれ抱え続けてきた。
けれど、それも僕の死によって終わりを迎える。
ホスピスの転院が正式に決まった直後、総一と結衣子、それぞれに別れを告げた。
突き放すように冷たく。
僕との縁を完全に断ち切るために。
そして、誰にも別れを告げず、僕はホスピスへと転院した。
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「平井さん!平井さん!先生…!」
看護師が僕の容体の急変に気づき、僕の名を懸命に呼ぶ。
しかし、その声はだんだんと遠のいてゆく
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