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本当に聞きたいのは、そんなどうでもいいことではなかった。しかし、聞いてもいいのかためらいがあった。踏み越えるのが、怖かった。もう二度と、引き返せなくなりそうで、ただ恐ろしかった。何故そう思うのか、分からないが、恐怖しか感じなかった。
「聞いても、いいですか?」
「バーカ。だめなら言わないさ」
そして家に着くまでの間、柊先輩は時折 言葉に詰まりながらも、自分の過去を打ち明けてくれた。
元々は警察官で自らが担当した事件は、ほとんどを解決へと導いた。しかし幾つかは迷宮入りしてしまった。責任を感じた柊先輩は、防衛軍に転職したのち、現在の遺体捜査官になった。
その迷宮入りした事件の中で今でも、強烈に覚えている事件があった。それがレーザー切断機による、バラバラ殺人事件だ。痣や目立った外傷がなかったため、生前に暴行を受けた痕跡はなかった。しかし何かを隠すように、遺体をバラバラにしていた。まさか切断機を使うとは想像しておらず、事件は難色を示した。ようやく凶器が特定できた頃には、 証拠隠滅及び被疑者が自殺したあとだった。
「でもレーザーってペンライトみたいなものですよね。そんな人体を切断なんて出来るんですか?」
「おい朝霞、お前何か変な想像してないか?」
私が首を傾げると、柊先輩は呆れたようにため息をついた。どうやら私が考えているものとは、異なっているようだった。
柊先輩は私に、レーザー切断機の危険性をみっちりと講義した。ポインター程度なら、人体に害はないのだが、金属などを切断する場合は、高温のレーザーを当てることで切り分けられるのだ。その温度は骨を砕くどころか、溶かす程だというのだ。思わず悲鳴をあげると、真顔で分かったかと聞かれた。
しかし腰を抜かすほど驚いたため、声が十分には出ず、コクコクとぎこちなく頷いた。その反応がよほど滑稽に見えたのか、私はまた柊先輩に爆笑される羽目になった。
「それじゃあまた明日な」
「はい」
玄関前で車から降りると、そう声をかけられた。
―また明日、か―
そんな言葉を聞いたのは、本当に久し振りだった。なんだかくすぐったい気持ちになった。
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