第四話

4/4
前へ
/40ページ
次へ
 本当に聞きたいのは、そんなどうでもいいことではなかった。しかし、聞いてもいいのかためらいがあった。踏み越えるのが、怖かった。もう二度と、引き返せなくなりそうで、ただ恐ろしかった。何故そう思うのか、分からないが、恐怖しか感じなかった。 「聞いても、いいですか?」 「バーカ。だめなら言わないさ」  そして家に着くまでの間、柊先輩は時折 言葉に詰まりながらも、自分の過去を打ち明けてくれた。  元々は警察官で自らが担当した事件は、ほとんどを解決へと導いた。しかし幾つかは迷宮入りしてしまった。責任を感じた柊先輩は、防衛軍に転職したのち、現在の遺体捜査官になった。  その迷宮入りした事件の中で今でも、強烈に覚えている事件があった。それがレーザー切断機による、バラバラ殺人事件だ。痣や目立った外傷がなかったため、生前に暴行を受けた痕跡はなかった。しかし何かを隠すように、遺体をバラバラにしていた。まさか切断機を使うとは想像しておらず、事件は難色を示した。ようやく凶器が特定できた頃には、 証拠隠滅及び被疑者が自殺したあとだった。 「でもレーザーってペンライトみたいなものですよね。そんな人体を切断なんて出来るんですか?」 「おい朝霞、お前何か変な想像してないか?」  私が首を傾げると、柊先輩は呆れたようにため息をついた。どうやら私が考えているものとは、異なっているようだった。  柊先輩は私に、レーザー切断機の危険性をみっちりと講義した。ポインター程度なら、人体に害はないのだが、金属などを切断する場合は、高温のレーザーを当てることで切り分けられるのだ。その温度は骨を砕くどころか、溶かす程だというのだ。思わず悲鳴をあげると、真顔で分かったかと聞かれた。  しかし腰を抜かすほど驚いたため、声が十分には出ず、コクコクとぎこちなく頷いた。その反応がよほど滑稽に見えたのか、私はまた柊先輩に爆笑される羽目になった。 「それじゃあまた明日な」 「はい」  玄関前で車から降りると、そう声をかけられた。  ―また明日、か―  そんな言葉を聞いたのは、本当に久し振りだった。なんだかくすぐったい気持ちになった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加