4人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女は、本当に突然にやってきた。そして、彼女の評価はさまざまであった。遺体を嗅ぎ分ける力を、即戦力になると期待された。その一方では、社長のお気に入りだから、奔放で手にあまると、周囲に疎まれていた。もちろん非難する者が、大多数をしめていた。
「ようお嬢ちゃん。何か遺体を捜し当てるこつでも教えてくれよ」
「おい柊(ひいらぎ)、やめておけよ」
からかい混じりに、そんな言葉が飛び交うほど、肩身の狭い中にいた。
彼女はピタッと、動きを止めた。
落ち着いた赤茶色の髪に、派手なクリスタルの輝きを放つ眼の持ち主だ。首に軽く触れる程度の短髪は、手入れが行き届いており、さらさらのストレートだ。またモデルをしていたこともあり、童顔の部類ではあるが、整った顔立ちだった。しかし百六十八cmの身長が、コンプレックスであった。
その一方で目が大きく、唇は薄く横長で例えるなら、魅惑の女性といったところか。髪と眼の色が相反する容姿なので、注目の的になっていた。そんなギャップだらけの彼女は、背後から明らかな嫌悪を放出させていた。その矛先は、当然彼だ。彼女は右手を震えるほど強く握りしめた。そして迷うことなく、一度は通り過ぎた、彼の方へと引き返した。
「遺体の声を聴けば、誰だって出来る」
今まで何を言われても、沈黙を守り通してきた彼女が、初めて言い返した。そのためからかった本人は、面食らった顔をしていた。
柊と呼ばれた男は、ここで十二年も勤務しているベテランの遺体捜査官だ。実績も経験もあったが、彼女が来てからはさっぱりで、そのとばっちりを受けていた。
彼は元防衛軍の軍人だ。男の人に力では適わない。それが軍人ともなればなおさらだ。彼女は見れば見るほど、腹立たしいという怒りが、込み上げてきた。体格がよく、身長も高い。彼女には少なくとも、百八十cm後半に見えていた。つまり嫉妬だ。彼女にないものを、彼は全て持っていた。
グレイのカラーTシャツから露出した腕は、競輪選手の筋肉質な足ほど太かった。勝手な想像ではあったが、リンゴどころかメロンでさえ、握りつぶせてしまいそうで、彼女は思わず一歩後ずさった。
彼女が見かける時は常にぶっちょう面で、威嚇には十分な眼光の鋭さだ。悪人面や強面という表現が、最も近い容姿だった。
「朝霞(あさか)君」
「若葉(わかば)社長、おはようございます」
最初のコメントを投稿しよう!