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君にだけ捧げる陳腐な愛の歌。
「終わったんだからいい加減どけよ」
さっきまでの甘い雰囲気はどこ吹く風。
男にしては細い体を抱き寄せ情事の名残を惜しんでいた俺を栄はぴしゃりと跳ねつけた。
「つれねぇの」
口先ではそう拗ねてみせたけど、いつもの事なので実はそんなに気にしてない。
大人しく体を離した代わりに隣に寝転ぶと、気怠く投げ出された足──視線を上げれば太股の白さが目につく。
更に上に目線を動かしていけば、退屈に歪んだ端正なな造りの顔。
他人に見せる時のそれ。
…俺としたばかりなのに2人きりなのにそんなあっとゆうまに標準装備しちゃわなくたっていいのにな。
・・・よし。
ふと思いたち俺はベッドを降りる。
べッドサイドに片膝を引っ掛けて座る栄の前に跪き、恭しく手を取りおもむろに口を開いて一言。
「あぁ、愛しい人」
「何がおっぱじまったんだ?」
間髪入れずに鼻で笑うとか恐れ入るね。
すかさず俺も間髪入れずに
「何と言える程のものではありませんが、あえて言えば私から貴方へ捧げる愛と忠誠の言葉。拙いものではありますがどうぞ受け取って下さると幸いです」
そう気取った口調で宣(のたま)った。
「……面白い冗談」
全身全霊の告白は、目を細めた微笑みで流された。
いつも軽めじゃなんだしと真剣な雰囲気を演出してみたのに、あんまり効果はなかったようだ。残念。
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