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「栗山君、今はまだ営業時間中ですよ。呼ぶなら先輩じゃなく社長と呼びなさい」
「……、どわ!」
先ほどまでとは異なり、やけに男性の声が近くで聞こえると感じた剣はつぶっていた目を開ける。すると、目と鼻の先に眉間にしわを寄せた男性の顔があるではないか。
剣は驚きの声を挙げると、反射的に顔を可能な限り引っ込めた。
「返事は? 栗山君」
「は、はい。分かりました、社長」
剣の返事を聞いた社長は、剣とのやり取りにいったんの区切りがついたと判断したのか、今度は剣の隣に座っていた女性に言葉の矛先を向け始めた。
「早瀬君も、テレビを見るなら営業時間外にしなさい。分かりましたか」
「……、はい」
早瀬君と呼ばれた女性こと早瀬 睦月(はやせ むつき)は、同僚である剣の言葉とは異なり、やはり自身の上司である社長の言葉には素直に従うようで。
未だに、番組MCが留まる所を知らないマシンガントークを繰り広げている、まさに最も盛り上がっているであろう最中にも関わらず、彼女はテレビの電源を切った。
「全く……。いいですか、何度も言いますが二人は我が社の数少ない貴重な社員なんですよ、派遣社員じゃなく正社員なんですよ。であるならば……」
また始まった。剣と睦月の二人はそう言わんばかりに横目で互いを見交わすと、小さくため息を零した。
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