第1話

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佑人がオレの前に雑誌を投げた。 付箋のついたページが上手い具合に開いて、サインペンの赤丸が目立つ。 「これ、どういうことなのかな。薫。」 それは住宅情報誌だった。 他人の部屋に入るのはルール違反だと思うのだが。 心の中でため息をつき、テーブルに肘をついて頭を支えてにこりと笑う。 ネクタイの結び目に指を突っ込んで少しだけ緩めると、ボタンを外した。 「そのままだよ。部屋を探している。」 「だから、どういうこと?」 「ここは佑人の父さんの家で、オレは間借りしていただけだろう?もう佑人も大学を卒業して、就職したんだ。そろそろオレの役目も終わりだとは思わないか?」 「思わないよ。」 真っ直ぐな瞳に心が揺れる。 本当に大きくなった。 細身のオレに比べて、佑人は背が高くてがっしりした身体をしている。オレより頭半分高い背。今時の若者風の髪型。整った男らしい顔の涼しげな瞳は今は不機嫌そうに眇められている。 兄に似たその姿にため息が出そうになる。 佑人とオレが暮らし始めたのはオレが22歳で佑人が9歳の時だ。
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