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若いときのようにいちいちひとつひとつにぶつからずに済むようになるのは、そこからはみ出さないことが一番いいのだと学んで、そのうち習慣をなぞり出して生きるからだ。
いつかそれが何らかの答えを導き出せるほどのものになったなら、哲学や思想というものに名前を変えるのかも知れない。
けれど、俺達はそう若くもなくて、かといって答えを定められるほど長く生きてはいなくて。
ふと我に返ったとき、そんな泥のような毎日がただ虚しくて、涙する日だってある。
──間違えもするさ。
特に、俺達みたいな煩悩まみれの馬鹿は。
「操」
「木島……きじまっ、きじまぁ……っ」
俺に抱き付いて縋っていたはずの操は、やがて自力では立っていられなくなってその場にズルズルとしゃがみ込んでしまった。
俺が咄嗟に掴んだから、手だけは繋がっているけど。
俺と操の距離は、これが限界なのかな……という気がしていた。たぶん操も、それを判っている。
判っているのに、望んだ。それ以上を。
どちらも──誰も幸せになんてなれない方法だと、知っていたはずなのに。
俺の手を力なく掴み返しながら、操はわあわあと声を上げて泣いていた。
泣き止み方さえ知らない子どもみたいに。
操を見下ろしながら、俺は8年もの間この胸を蝕んだ恋の動機をようやく悟った。
──俺と操は、似てるんだ。どうしようもなく。
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