124人が本棚に入れています
本棚に追加
゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚
遠くのどこかから、少し懐かしい歌が聞こえてきた。
なんだっけ、この曲。
タイトルを思い出すより先に、身体の中で昂揚感がうごめく。
定休日の喫茶店の前にある植え込みの煉瓦に腰かけつつ、かすかに鼻歌で旋律を追う。
日が暮れていく寒々しさはこの季節特有のものだ。
だんだん冷たくなっていく風にわずかに身を竦める。
でも、苦にはならない。昨日みたく、心細い気持ちでもない。
本当はメールでもしようと思ったが、下手に急かして彼女に仕事の罪悪感を抱かせるようなことになったら……と思うと送信できなかった。
だって、まだ知らないんだ。
彼女が何を気にするのか。彼女が何に傷付き、何に喜ぶのか。
そういうの、ゆっくり探っていきたい。
何でもない動作でそれらをいたずらに刺激して、見逃してしまうのはごめんだ。
色んな雑音やピンクな音楽に紛れて聴こえるその懐かしい曲は、特に思い入れもないのに胸をぎゅっと締め付ける。
ホントに、なんだっけ。
.
最初のコメントを投稿しよう!