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初めの二週間は慣れない環境からか体調を崩しがちで、ラケルはほとんどルアンの部屋に泊まり込みだった。
火属性を得意とする特性上、熱が出ると一気に高熱を出しやすい。熱が引いた後も排泄が安定せず、容態が落ち着いて用意される少なめの食事を食べ切れるようになった頃には、人間界に来てから二十日が経とうとしていた。
今日はかなり体の調子が良く、魔力も久しぶりに元気に体内を駆け巡っている。城内をなんとなく散歩していると、吹き抜けの中庭を使った訓練施設の中にラケルの後ろ姿を見つけて立ち止まった。
「今のは避けるな!」
手合わせしている兵士達を見て、両者に厳しく指導している。いつもは優しげな様子だが、それを見てラケルが王兵の総隊長という立場であることを思い出した。
中庭には城へ被害が出ないよう結界がはられていて、その外からぼんやりと稽古の様子を眺める。こちらに来てから一度も魔力を使っていないし、運動も散歩くらいしかしていない。思う存分体を動かせる兵士たちが少しうらやましく思えた。
ふいにラルクがこちらを見て、優しく手招きする。戸惑いながら近づくと、兵士たちがざわついた。ルアンの存在はラケルから周知されているが、普段人前に出ることは少ない。
「ルアン、おはよう。一人で来るなんて珍しいじゃないか」
「おはようございます……」
多くの人から注目されていることに緊張して、縮こまってしまう。血色のいい顔色と調子の良さそうな魔力。
「ふむ、お前ら! 少し休憩だ」
兵士に指示を出して、額に手を当ててきた。
「体調はどこも悪くない?」
「今日はかなりいいです」
すると、わかったと微笑んで頭を撫でる。
「少し出かけるか」
「外に?」
体調がいい日は敷地内の庭で散歩したり日光浴をしたりすることもあるが、街には行く用事があるわけでもないため一度も出たことがなかった。
「うん、お前のことを紹介したい人もいるからな。ちょっと待ってろ」
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