魔王に拾われた男の子

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 サインを書き終えた書類。国王はそれを見てうなずいてから、もう一度確認した。 「本当に引き取るつもりなのか?」  信じられないといった様子で聞いてくる。私も同じ感想だわ、と国王には聞こえない声が面白そうに呟いた。言われた本人である魔王でも少し大胆だっただろうかと思うが、今までの退屈だった日々にそれなりの刺激となるだろう。 「決めたからにはな」  目の前に不安そうに座っている彼を燃えるような赤い目で一瞥し、そのうちに秘められている魔力を確かめる。オレンジの髪に薄紅の瞳を持つ幼い男の子。まだ四歳という幼さでは測りきれないが、かなりの素質を秘めているのが分かる。  貧困によって育児放棄や捨て子が社会問題となっているが、何も対策を立てられていないのが現状。この少年も一昨日の大雨の中、路地裏に一人で眠っていたところを保護されたばかりだ。  怯えた様子も無理はないだろう。腰にまで届こうかという黒光りする髪に赤い目。今は人界にいるためスーツ姿だが、それを突き抜ける大きな黒い翼が台無しにしている。目の前にそんな人物が立っていて、自分を引き取り育てようとしているのだから。 「まあ、いつまで魔界で育てられるかはわからないが。栄養が足りなくなったらその時はその時で考えたらいい」  魔王にとってはアザゼルに提案されただけで、何か目的があったわけではない。こういった軽い考えになるのも仕方のないことだろう。 「名前は?」 「……ルアン」  声が震えている。少なくともいい印象は持たれていないようで、ため息をついた。 「ルアンか。行くぞ」  別に好かれるように動くつもりはないが、父親代わりとなるならばある程度信頼を得なければならないだろう。そう考えている割には少しぶっきらぼうな扱いだが。  それでも素直に傍へ近寄ってきたルアンを、片腕でひょいと抱き上げる。  ちぐはぐな二人は、あいさつもほどほどにアザゼルによって魔界へと転移した。
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