魔王に拾われた男の子

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 空が青い。その中に白い雲がぽつぽつと浮かんでいる。茶色のレンガを積み重ねた建物や、木を組み合わせた建物。多くのそれらがバランスよく配置された街並み。その間をさまざまな髪や目の色を持つ人々が、多種多様な形や色の衣服を身に付けている。道の脇にはオレンジや赤の花が咲いていて、緑の木々が風に揺れて太陽の光を反射する。  人々の話し声や足音。なにかを開け閉めする音。動物の鳴き声。全ての音が混ざり合って耳に届いてくる。隣に咲く花の甘い香りや木の匂い。どこからかおいしそうななにかの料理の匂いも漂ってくる。  どれも知らないのに、どこか懐かしい。なによりも肺に入れる空気が澄んでいて、どれだけ深呼吸してもせき込むことがない。むしろ目一杯吸い込みたくなる。 「……まぶしい」  五感で感じるすべてが。今まで見て来たもののなによりも。  王都をぐるりと囲む壁のほど近く。端から端まで移動するのに丸一日かかる広い街。王都と言えどこの辺りは他の街とほとんど変わらない。のどかで、それでいて賑わいを見せる光景に、ルアンは圧倒されていた。 「君、どうしたのかな、迷子?」  衛兵と思しき人物に声をかけられ、ぎくりと固まってしまう。怯えているのがわかったのかルアンの身長に合わせてかがんできて、余計に焦ってしまった。  魔界の言葉を普段使っていたが、人間界の言葉も日常会話であれば問題ないレベルの知識を身に付けている。年相応の語彙力とまでは言えないが、人間界に住んでいたころより豊富な表現力があるのは魔王の教育によるものだ。だが、実際その言葉を使うとなると勝手が違う。 「大丈夫。です」  片言で答え、逃げるようにその場を離れる。追いかけてくる気配があったものの、体が小さいおかげでうまく撒くことができた。  幸い、この街で最も大きな建物である王城は街はずれのここからでも頂上を見ることができる。初めの試練として直接王城ではなくこのような端に転移させられたものの、なんとかなりそうだ――と思っていたのだが。
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