魔王に拾われた男の子

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 大人の足でも数時間かかる道をましてや道のりを知らない子供が歩けるはずもなく。  空は美しい茜色に染まって、肌寒くなってくる。空腹と疲れで、目に入った広場のベンチに座り込み大きく息を吐いた。魔力が栄養源でそれも摂れていない状況では、もともと魔力は心もとない。なぜ先ほど声をかけてくれた人から逃げてしまったのだろうと後悔してしまうが、今さらどうしようもない。  座った直後に訪れた眠気にうとうとしていると、一つの足音が近づいてきた。はっと目が覚めて、身構える。 「ああ、ようやく見つけた。ルアン、だな」  警戒しているのがわかったのか、やわらかい笑みを浮かべた。目の端にしわができて、つり目の怖い印象が少し薄れる。長めの赤髪が夕日に照らされ、金色を帯びた。 「知ってる、ですか……?」 「王兵、だからね」  白の裾が長いコートに黒のパンツ。胸に光る金の徽章。王兵を表す制服だ。まさか探されているとは思わず、ぽかんとしてしまった。 「なかなか来ないから心配でね。一応王兵総隊長を務めているラケルだ。それと……君を保護した人物、といえば迎えに来た理由はわかるかな」  その言葉に、呆然と目を見開いた。命の恩人ともいえる人が今目の前にいる。王兵だと聞かされていたから、いつかは会えると思ってなにを言うかは決めていた。それなのに、いざとなると言葉が出てこない。 「あの、俺」 「城に帰ってからゆっくり話そう。ここにいては風邪をひいてしまうし、お腹も空いただろ。でも……君と再会できて、本当に良かった」  優しい言葉。どう反応すればいいのかわからず、うなずくことしかできなかった。  わざわざラケルが王城まで転移を使い、外見を見ることなく城内に入っていた。大理石の白い床の上に主な道に沿って赤のカーペットが敷かれている。きらびやかな装飾に、まぶしいくらいの照明。大勢の人間が行き交っているのは先ほどの街はずれの光景と同じなのだが、足音が響くだけの静かな空間。それらを見渡している間にラケルがすたすたと歩きだしてしまったので、慌てて追いかけた。
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