魔王に拾われた男の子

6/10
前へ
/15ページ
次へ
 かなりの距離を歩き、ところどころ要所となる部屋の説明を受けながら進む。 「ここから王に仕える兵、使用人、王兵の居住区域レジデンシアだ。地位ごとに与えられる部屋の階数が高くなって、王兵は一応最上階の部屋が与えられる」 「それだけすごいのですか?」  人間界で育った者であれば、二十三人しかいない王兵に対して尊敬と畏怖を抱く。それを知らないがゆえの単純な質問に、思わず微笑んだ。少し硬い敬語も微笑を誘うのだろう。 「すごいと思われるような存在になっていきたいな」  素直な問いだからこそ、虚勢のない素直な答えが生まれる。だからだろうか。ルアンは少しだけ沈黙してから、はいと控えめにうなずいた。  五階分の階段を上って廊下に出ると、扉がレジデンシアに入ってすぐにあったそれよりも大きくなっていた。その内の一つの部屋の前でラケルが立ち止まり、ルアンに振り返った。促されて、両開きのドアを押し開ける。  広々とした部屋。家具は全てモノトーンで色が統一されていて、奥の大きな窓から心地のいい風が吹き込んできていた。 「ここがお前の部屋だ。もし必要なものがあればその都度持ってこさせるから遠慮なく頼むといい」 「えっ、ここが、ですか……?」  てっきり共有スペースだと考えていたルアンが、思わずラケルに振り返る。 「そ。手前の扉が寝室。奥はシャワールームだ。食事とアメニティを用意させてくるから少し寛いでいるといい」 「あにめてぃ……?」  なにか必要なものなのだろうか。首を傾げるルアンに気づかぬままラケルが退室して、考えることを諦めてぐるりと部屋を見渡す。部屋はカーペットが黒く、家具も茶色で色合いが魔界と大差ないため、一人になって少し落ち着くことができた。寝室のベッドもシーツは白だが掛け布団は茶色で、魔界で過ごしていたルアンに気を使って取り替えたのかもしれないと思える色。  ベッドの傍に本棚がありいくつか本も並べられていたが、読み書きができないため中の絵を見てジャンルを判断することしかできなかった。  ソファに腰掛けて窓の夕日をぼうっと眺める。魔界では見ることのできなかった光景。それに魅入っていると、小さな音を立ててラケルと若い女の使用人が二人入ってきた。茶髪で大きなバスケットを持った人と、食器をいくつか乗せたトレーを持つ銀髪の人。 「待たせたな。この二人はこれからこの世界にお前が慣れるまで、使用人として仕えさせる者だ。銀髪の方がシーシャ、茶髪がミエ。ある程度の勉強も見てもらうからな」  恭しく頭を下げた二人に、慌てて立ち上がってお願いしますとお辞儀する。シーシャがテーブルの上に料理を置き、ふわりといい香りが鼻をくすぐった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加