魔王に拾われた男の子

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 途中休憩を挟みながら日が傾く頃にはあらかた表を見なくても書けるようになって、達成感にほっと息を吐く。 「お疲れ様でした」  付きっきりで見てもらったシーシャに、ありがとうございますと頭を下げる。 「いえ。お礼を言われるほどではありませんよ。とても飲み込みが早くて驚きました」 「のみこみ?」 「覚えるのが上手、ということです」  昨日ラケルと話していたときからわからない言葉がところどころ出てくる。アニメティは「アメニティ」で歯ブラシやシャンプーなどの生活に必要な道具のことだった。覚えるのが上手と言ってもらえたから、知らなかった言葉も少しずつ覚えていかないと。 「私は一度夕飯の支度に戻りますからなにか御用があれば寝室の魔法陣を使ってください。あちらはラケル様、私とミエの誰でも対応できるようにしておりますので」  シーシャが退室して、一気に室内が静かになる。朝に元々読ませるつもりで持ってきていた本が机の上に置きっぱなしになっていて、今なら読めるだろうかと手をつけた。 「えっと……」  この国の歴史が書かれた本のようで、かわいらしいイラストが多用された子供向けのもの。ときどきつっかえて文字表を確認しながら読み進めていく。  しかしわからない単語も多くて、内容を理解できるのは六〜七割程度。どういうことが起きたのかという概要はわかっても、なんで起きたのかといったことやその出来事の詳細までは掴めない。  それでも文章が読めるようになった事がうれしくて、一心不乱に読み進めた。
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