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なにもしないという言葉がピッタリなキッチンスペース。
食器棚すらなくて、
普通はあるだろう食器洗剤やスポンジなんかも見えない。
なにもないというのがピッタリなキッチン。
かろうじて冷蔵庫だけが在り、
カウンターの上に電気ケトルが電源も入れずに置いてある。
「寝る時間が無くなりますので、
早めに話してもらえますか?
明日は早いんです。」
こんなヤツだったか?
一度だけ、
澪と一緒に会ったときには、
こんな感じじゃなかったと思ったけど。
「澪のことだが…」
そう言って顔を見たが、
顔色のひとつも変えない。
もう忘れたという事か?
数えられない程の女を相手にしてきたから、
思い出すのにも時間が掛かると…?
「もう、
昔のことです。」
やっぱりな。
「なんで別れたのか、
聞いてもいいかな…」
そんなこと、聞くこと自体、
間違ってると思う。
でも、単刀直入に聞いた方が話は早い。
「解りません…」
そう言って、
しばらくの時間が経つ。
どう聞いていいのかさえ解らなくなってる。
「突然に、
好きな人ができたから、別れたいと言って、
電話にさえ出てくれないまま、
そのままですから…」
ベランダに出る掃き出し窓の傍に立って、
外を見てる。
表情は見えない。
「皮肉なモンですね…
売れれば誰にも文句は言わせないと思っていたのに、
作品がヒットして人気が出れば出るほど、
自分の思い通りにできない。
自分の時間なんて、
寝る時間以外には1時間も取れない。
起きて、
目の前の仕事場にいって、
準備されたロケ弁食べてここに帰って寝るだけ。
あんなの全部ウソですよ。
週刊誌やテレビなんかでの熱愛報道。
ここ半年は飲みにさえ出ていない。
共演した現場でしか会ってないんですから。
売れるための作戦だそうです。
まあ、
どっちでもいいんですけどね…
誰になんと思われても、
かまやしない…」
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