第5話

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その言葉を聞くまでは… 本当に別れたのか、 自信はなかった。 澪とは隠れて付き合いながら、 その一方でも、 女優と付き合ってるかもしれないと、 心の中で、 ちょっと思ってた。 だから、 おなかが大きかったというのは、 遙人の子供で、 表沙汰にできないから、 隠してるのかと思ったんだ。 「笑ってもいいですよ… 可笑しいでしょ?」 遙人は自分で笑ってる。 乾いた笑い。 泣いてるような、 笑い声。 何だよ… おまえもまだ…? 「笑いませんよ。 その気持ちは私にも解りますから。 じゃあ、 いったい誰と… おなかが大きかったと聞いたんで、 心配したんです。 同期の誰も知らないから。」 男としては結構ダメージが大きい。 子供を産んでもいいと決心できるほど、 愛する人ができたという事だから。 ただ、 好きになったというわけではないんだ。 ただ、 付き合ってるというだけではないんだ。 俺はそこまでの愛を得られなかったから。 「僕も聞きました。 先輩が偶然に会ったって言ってまして、 外国の人らしいです。 その人と結婚したと… 詳しくは知らないんですけど。 聞きたくもないし。」 そう言って振り返った遙人の顔は、 俳優の顔だった。 何かのセリフでも言うように、 決められた言葉を上手く表現してる。 いいな… 俳優は。 そうやって、 失恋した役を演じれば、 その後の展開は忘れてしまえばいいんだから…
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