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喫茶大正堂は、瀬織達の研究室のある、技術研究本部から近い位置にある。
昼間は、サラリーマン等でそこそこには混み合うが、昼時が過ぎれば客は減る。
その日も人が引けた店内には、1人しか客がいなかった。その客は4人がけの席を独占していた。
がらん、
と、ドアが開いた。
瀬織が入ってきた。
1人しかいない客のテーブルに着く。
客は、30半ばの男だ。
ジイサンはオーダーをとらずに、コーヒーポットを瀬織の前に置いてカウンターに戻る。
瀬織は、男をにらんだ。
「まさか、国内から御呼びだしとは、予想外だわ。」
男は気弱げに笑う。
「そう言うなよ。これでもなけなしの勇気を振り絞ったんだ。」
カウンターにいたアルバイトの姫が、ジイサンに耳打ちした。
「お水差しにいかないほうが、いーでしか?」
「あ、ああ。」
ジイサンは心ここにあらずといったふうだ。
「あの方、どちら様なので?」
「近藤ケイ、危険人物だから覚えておくといい。」
忠丹国に行っていたはずの近藤が、いきなり大正堂に現れて、電話で瀬織を呼び出したのだ。
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