1.瀬織 不在

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喫茶大正堂は、瀬織達の研究室のある、技術研究本部から近い位置にある。 昼間は、サラリーマン等でそこそこには混み合うが、昼時が過ぎれば客は減る。 その日も人が引けた店内には、1人しか客がいなかった。その客は4人がけの席を独占していた。 がらん、 と、ドアが開いた。 瀬織が入ってきた。 1人しかいない客のテーブルに着く。 客は、30半ばの男だ。 ジイサンはオーダーをとらずに、コーヒーポットを瀬織の前に置いてカウンターに戻る。 瀬織は、男をにらんだ。 「まさか、国内から御呼びだしとは、予想外だわ。」 男は気弱げに笑う。 「そう言うなよ。これでもなけなしの勇気を振り絞ったんだ。」 カウンターにいたアルバイトの姫が、ジイサンに耳打ちした。 「お水差しにいかないほうが、いーでしか?」 「あ、ああ。」 ジイサンは心ここにあらずといったふうだ。 「あの方、どちら様なので?」 「近藤ケイ、危険人物だから覚えておくといい。」 忠丹国に行っていたはずの近藤が、いきなり大正堂に現れて、電話で瀬織を呼び出したのだ。
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