気苦労その1

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「........くあ....!」 とある洞窟で1人の男性が目を覚ます。 顔は中性的で男の人にしては低身長。 そして良く手入れされたようなグリーンの髪が肩甲骨辺りまで伸びた特徴的な見た目だ。 男は寝ぼけ眼で自分の寝ているベッド付近を見回す。 辺りを一周するように見回し、もう一度逆周りに一周する。 そして口を開けた。 「な、なんじゃこりゃああああああ!?」 初めて声にしたのは疑問の絶叫。 それも肺の中の空気を全て吐き出すまでと長い絶叫。 男は混乱しているようでベッドから飛び降りてもう一度辺りを見回す。 何度見ても現実は無情で、見慣れたはずの自分の部屋ではなく真っ暗な見知らぬ洞窟。 しばらくして少し落ち着いたからか、部屋の隅っこに分厚い辞書の様な本が置いてあるのを発見する。 「な、なんだあれ....?」 男は疑問に思いながらもその本を手に取る。 表紙と裏表紙と見るが、特にイラストや柄がある訳でもなく無地。 更にページ数も相当あるようで腕に伝わる重さは相当だ。 男は興味と不安の複雑な気持ちで1ページ目を開く。 本にはこう書いてある。 『おめでとうございます。 あなたは厳選なる審査の結果、異世界へのダンジョンマスターとして選ばれました。 異世界への移動とのことで、世界との間に歪みが生じないように勝手ながら記憶と前世と関係するもの全て消去させていただきました。』 「はぁ?」 何を言ってるんだこの本は? 正確には本だから声にしては居ないのだが。 記憶を消去した? ははは、面白いジョークだ。 『おそらく信じられませんでしょうが本当です。試しに自分の名前や家族構成を思い出してみて下さい。』 名前と家族構成?そんなの簡単じゃないか。 えーと、僕の名前は....。 僕の....名前....。 名前....。 あれ、思い出せない。 名前どころか家族構成だってそうだ。 父親が思い出せない。 母親が思い出せない。 兄が思い出せない。 妹が思い出せない。 本当にそういった者が存在するのかすら思い出せない。 どうなってるんだ!?
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