ワイン Ⅰ

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今まで隣の部屋に隠れていた僕、二階堂竜之介はここ二階堂探偵事務所の所長兼探偵をしている。女性が戻って、大家が帰ったことに安堵の胸を下ろして、元の部屋に戻った。 「まだ家賃を払ってないんですか」 気付くと、テレビの電源を付け直した女性は次回予告が流れてることに、がっくりと肩を落とした。 「しょうがないじゃないか。今月まだ依頼ないし」 僕は壁に掛けてあるホワイトボードを見つめた。 そこには事務連絡と一緒に『今月◯◯件解決しました』と書かれていた。問題は◯の欄が何も書かれてないことだ。 いや、寧ろ何か書かれていたことは、1年で5~6回あるかないか。 ポリポリ。まったく、この子は。 人の心配とはよそに、チャンネルをワイドショーに変えて何かお菓子を音を立てて食べている、この子は僕の助手の八十島ジュリアである。 すらっとした体型に通った鼻筋と綺麗な顔立ちの時々見せる大人びた表情が、16歳の少女には見えない。決して、僕の容姿が人並みより小柄で童顔なのは、関係ないと僕自身は思ってる。 「君も少しは依頼を探したらどうなの」 手に取っていたファイルをパタンと閉じて、机に放り投げた。 「依頼は探せば見つかるものじゃなくて、舞い込んでくるものなんですよ」 少女はこの調子でいつも返すのだ。生意気というのも追加しとく。 ピンポーン。やはり、鈍い音色が部屋中に響く。 「ほら、依頼なんじゃないですか?」 「いや、大家が戻ってきたんじゃないのかな」 僕はパブロフの犬のごとく、隣の部屋に隠れた。それを見て少女は苦笑いをして、スタスタと玄関に向かった。 どうか大家ではないように。それが僕の唯一の望みだ。 開いたドアから光が溢れる。 「あら、ジュリちゃん」と聞こえない限り、大家ではないのだろう。僕は安心して、隣の部屋から出てくるが少女が戻らないことに気付き、警戒しながら玄関に向かった。 そこにいたのは、やはり大家ではなく、少女の言うとおり依頼人が立っていた。 小さな依頼人が。
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