ワイン Ⅰ

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「まあまあ、まずは話を聞かせてよ」 多少ながら上から物を言ってしまったのは、我ながらどうかと思ったが、せっかくの金蔵をみすみす逃がすわけにはいかなかった。その気持ちを見透かしたように、冷ややかな視線が突き刺さる。 少年を部屋に通して、ソファーに座らせる。少女は「飲み物は何がいい」と聞くので、僕はコーヒーと付け足した。もちろん、目を背けたくなる表情で僕を見つめる。 「名前を教えてもらえる?」 冷蔵庫の中にたまたまあったオレンジジュースを注いだコップを両手に1つずつ持ち、少年が座る目の前のテーブルに置き、用意した調査依頼書にペンを向けた。 僕は少女に目配せされて、渋々キッチンに行き、自分のコーヒーを淹れるために湯を沸かしていた。 「僕の名前は相楽駆です」 コーヒーカップにドリッパーをセットする。フィルターの中にある挽いた豆に湯を少量かけてふやかす。3分程度待ってから、内側から外側へ渦巻きに注ぎ込む。茶色い泡が表面に浮かんできたら、出来上がり。 出来たてのコーヒーを僕は口へ運ぶ。 「探偵さん、コーヒーの話はいいですから、こっちへ来てください」 少女の声は穏やかではない。 やれやれ、一応所長なんだけど。 コーヒーカップを両手に抱えて、僕は少女の隣に座った。 「それじゃ駆君、詳しい話を聞かせて」 少女が苛立ちを隠しつつも、声のトーンで悟られないよう柔らかく言おうと努めたが、表情と声がバラバラという複雑な状態になっていた。
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