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「院長先生…失礼します」
深い茶色の大きな扉を何かの資料を抱えた女性が開いた
「あぁ、下がってくれるか?」
広々とした部屋の中にはテーブルを挟んで皮のソファーが並ぶ
その後ろを懐かしいな…なんて思いながら、女性に会釈し、通り抜けた。
「久しぶり…」
「元気そうだな」
立ち上がる白髪の白衣を纏った男が、重厚な作りの椅子から腰を上げ、眼鏡を掛けた
「そっちこそ…」
「あぁ、老けただろ?」
見ない内に白が増えたその髪を掻き上げて右側の口角が上がる
ソファーの背凭れに寄り掛かる様に座る姿を眺めながら、久々に向き合うその人に苦笑いをした。
「ユキの墓に行ってきた……」
亜夢のおかげで、こうやって向き合う事が出来る
「そうか…俺を許してくれたのか?」
俺と似た顔が敷き詰められたカーペットを眺めて、伏せた
俺が事故を起こした時、
ユキは発作で眠っていた……
ーーーーーー
『司!大丈夫かッ?』
術室に響くスピーカーからの声に痛くて熱くて堪らない俺はそれでも必死に訴えた。
『父さ…んッ、ユ キッ、に俺のを……』
訴えが届いたかどうかも解らないまま、気がついたのは10日後だった。
『司?ッ!気がついたの??』
身体は力が入らなくて、
痛くて震えた。
『母さ…ん……』
『つかさっ、つか……』
おいおいと泣き叫ぶ母が手を握って、強くしがみつく…
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