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痛みによって飛ぶ記憶の片隅の何処にもユキは居なかった……
よかったと何度も訴える母の口からもユキの移植の事は伝えられないまま、
俺は回復へと向かっていった
『な、 で……』
事故から1カ月と2週間が過ぎた……
余りにも長すぎる沈黙に耐えかねた俺は訪れた白衣の男に寄って、海の底に沈められたかのように身体から血の気が引いて冷たくなる感覚を味わった
『ユキが選んだんだ……』
『ッ、だぁッ……』
吊るされた両足の事も忘れていた
重いギブスの存在も……
痛みも……
全てを投げ捨て白衣の襟に掴みかかった俺を掬い上げるように掴んだ手を汚らわしいと感じた
平気な顔をしている この男を許せなかった……
『がぁぁぁぁ!!!』
何度も、何度も
重いギブスの中で軋む腕を振り上げた……
何でなんだと
ずっと苦しんできたユキ
ずっと笑っていたユキ
笑うしか出来なかったユキ……
救いたかった……
守りたかった……
俺の命に代えても良いと思った……
『なんッで、なんでユキが死んだんだよぉぉぉお!!!!』
それは叫びだった。
心の奥から、胃のなかから絞り出した叫び。
その声はユキには届く事は無い。
『ユキが選んだんだ…すまない……』
その声も俺には届かなかった。
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