172人が本棚に入れています
本棚に追加
退院までの数週間……
俺は灰人にでもなったかのように、何もする事が出来なかった……
ただ、憎いと
許せないと
その憎悪ゆえ、ぬくぬくとベッドに転がる自身さえも嫌悪した……
『母さん…』
『なぁに?』
嬉しそうな母さんに胸が痛かった
『俺は何の為に生きているの?』
『……』
濡れた頬が冷たいと感じるには時間が掛かった……
この冷たさを感じられる己の温もりが恐ろしかった……
ユキが死んで俺が生きた、それを喜ぶ両親が許せなかった……
『俺、家を出るよ……』
『司…』
すぐ隣で母さんが泣いた
行かないでと泣いた
居なくならないでと懇願した
『貴方はユキなのよ……?』
最後、病室を抜け出す俺に綴った言葉だけが俺の耳に届いた。
『ごめん……』
手にした着替えだけを抱え、俺は両親が居る
ユキが居た世界から消えた。
ユキの居る世界に戻りたかった
何も無かった事にしたかった
処理する事の出来ない思いを受け入れられない現実から逃げた……
ただ、それは逃げただけだと理解するのには時間が掛かり
憎んだ父からの援助を受けながら学校を卒業し
何も出来ない自分の弱さを知らしめられた……
最初のコメントを投稿しよう!