story 椎名

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何かに没頭したくて始めたボクシング…… 殴られる度に揺れる脳が消えそうな自身を繋ぎ止めた ヤケクソだった。 何かが欲しかった ユキに変わる何か…… 進められ、受けることになったプロテストの試験会場…… 相手のグローブの陰から、父親がベンチに座るのが見えて 『……な、』 油断した 次に目覚めたのは医務室のベッドの上だった…… ゆっくりと開けた視界に剥き出しのライトが映る 『目が覚めたか?』 父だった…… 憎んで止まない父親の声がする 『ユキに貰った身体をあまりいたぶるな……』 どうやって知ったのか 嫌、ずっと知っていたのか…… 俺の心を見透かした父はそれだけを残し、部屋から消えた。 『っ、 くそぉ…』 守られ続ける俺。 多くは語らない父 死んだユキ その血が俺の中で蠢いて泣いている気がした…… 『ユキ……』 コンクリートの壁に消えていく声を、俺は見ながら 『大丈夫だよ?』 ユキが笑ってるような気がした。
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