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「あの日、司が言った言葉をユキに伝えた……」
まだ伏せたままの姿勢で、瞼を閉じた父が口にする
「ユキは笑っていた……」
儚げに笑い、足を組み直す
「バカだって笑っていた」
「……」
言葉を探した。
「俺を気にするなんてバカすぎて笑えるって、笑いながら泣いていた……」
微かに震える靴先が、視界に入り歪んだ……
「お前はユキの為に……ユキはお前の為に……」
きっと、こんなにも弱いこの人を知る人なんて居ないだろう……
目の前で、小さく震え細々と声を絞る父に押し潰されそうになった。
「俺達は何も出来なかったのに……な?」
弱く笑った。
その目尻から頬に伝う涙を見て、揺れた
「ごめん……」
俺が子供じゃなければ、こんなにもこの人を苦しめはしなかった……
暫くの沈黙の後
「生きてくれていれば、それでいい……」
父が言った。
その意味に、ユキの存在が含まれて居ること
そう願ったのは俺だけじゃない事
気付くには遅すぎた……けれど、嬉しかった……幸せだと感じた。
とくん……とくん……
この胸を鳴らすここにユキは居て。
その存在に助けられ、両親もそれを受け入れた……
「ありがと……ぅ」
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