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 タツオは歯をくいしばって、涙をこらえていた。甘い涙を落すような贅沢(ぜいたく)は自分には許されていなかった。1組との模擬戦で五十嵐はタツオをかばって死んだ。タツオの戦闘服はクラスメートから流れた血にまみれた。できたばかりの友人はタツオの目の前で亡くなったのだ。夏休みになったら五十嵐の実家にいき、息子の最後を両親に説明しなければならない。それくらいのことしか、自分にしてやれることはなかった。  死者への敬礼が済むと、担任の月岡鬼斎(つきおかきさい)教官がいった。 「3組有志、五十嵐高紀大尉の棺を霊柩車(れいきゅうしゃ)に」  養成高校を卒業すると、すぐに下士官扱いの少尉になる。訓練中の死亡事故で、五十嵐は2階級特進していた。まだ若い死者がそんなものをよろこぶとは思えないが。
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