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中空……暗黒が支配するそこで、白色と灰色の光が激突した。
それにより生まれた何度目か分からぬ衝撃光が、死屍累々の戦地を再び照らす。
そこに全うな空気など微塵も無く、有るのはひたすら鼻につく死の臭いだけ……虚無である。
あちらこちらに、まだ真新しい肉塊と兵器が転がっていた。
それが、この惨状がつい数刻前に出来たことを示している……。
刹那、中空にて激突を繰り返していた光の一つが、流星の如く軌跡を描きながら戦場に墜落、白色の光だ。
凄まじい衝撃音に違わず、墜落地点、及びその周囲に在ったはずの惨状が纏めて“消し飛んでいた”。
そうして出来た円形状クレーターの中心地には、淡く発光する半透明な何かが横たわっている。
強靭そうな四肢、純粋な殺意を湛えた牙と爪……そして、汚れなき純白の体躯。
何処か神聖ささえ感じさせる純白。それが何かと問われれば、そう……。
“白い獣”だ。
その白い獣を追うようにして、音も無く戦場に降りる灰色の光。
如何なる力が作用しているのか、その周囲は次々に“無くなっていく”。
さながら呼吸をするかのように、餌を食らうかのように……いとも容易く、それが当たり前とばかりに周囲を消滅させ続ける灰色の光。
それに呼応するかのように、横たわる白い獣は動きを見せた。
芯の軋む音が聞こえてきそうな程にぎこちなく、弱々しくその場で四肢を立てる。
開かれた瞳は、まるで太陽の様に熱く輝く金色の光を宿していた。
目に見える劣勢、敗色濃厚、背後にて待ち受ける終焉……しかし、その瞳から希望は消えていない。
白い獣の瞳は、希望の光は、真っ直ぐに灰色の光を睨んだ。
それを嘲笑うように、灰色の光は揺らめいた。
揺らめく光の中には、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、暴食、色欲、怠惰……狂ってしまいそうな程の色が渦を巻き、邪悪を感じさせる灰色を作り出している。
正に対極……白い獣の光とは対極の、不純物にまみれた負の光……。
その光はゆっくりと形を作り、漸く現世に足をつけた。
「さよなら平穏、こんにちは殺伐。ははっ、下らないなぁ……うん、下らない。なんの感慨も無いよ、ねぇ……?」
二足にて立ち、ほっそりとした五指が伸びる手で灰色の長髪を掻き上げるそれ。
そう……血のように淀んだ赤い瞳を持つ灰色の光は、 “人”の形をしていた……。
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