シロイケモノ

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「そう、簡単に……渡すと思ったかい?」  しかし、続いて響いた声に、白い獣の様子が激変する。 その体躯を小刻みに震わせ、汚れない純白に灰色の斑模様を浮かび上がらせた。 まるで病原菌か何かに冒されたかのような獣は次の瞬間、開いた口より大量の白い光を吐き出したのだ。  音を立てて崩れ落ちる白い獣に代わって声の主が、灰色の人形が動き始める。 残る片腕で身体を起こし、再び戦地を二足で立つ。 失われし部位は高速で再生され、まるで蜥蜴の尻尾のように生え変わった。 「それは、私のだ……お前のじゃない。返せというのは筋違いさ」  先程あった余裕は何処へやら……憤怒を滲ませた表情の灰色の人形は、ゆっくりと白い獣に歩み寄る。 「ちがう……だれのでもない……これは、あのこの……」 「はっ、バラバラに引き裂かれて食われた奴に所有権など無いさ! そう、つまり、腹に納めた私の物だよ!」  口から絶え間なく白い光を垂れ流す白い獣の弱々しい呟きに、灰色の人形が邪な笑みで応えた。 徐々に詰められる二者の距離。 淀みなく動く灰色の二足に対し、白い四肢には力が戻る様子は無い……。 地上の時間にして僅か数刻、二者にすれば無限に近い時間を費やした戦いは、今ここに決着を見出だす……。 白い獣の目と鼻の先、灰色の人形が足を止めた。 「さよなら平穏、こんにちは殺伐……ははっ、そしてようこそ新次元、かな? 前祝いがてらに、最後の歌は聴いてあげるよ……紡げるならね」  そこには慈悲も憐憫(れんびん)も、躊躇も後悔もない。 あるのはひたすらな嫉妬と憎悪、そして殺意……。 振り上げられた右腕は、間違いなく白い獣を捉えるだろう……先程の交錯と同様に。  そんな中でも光の消えぬ白い獣の瞳は、吐き出された闇色の前足を捉える。 そこから、かつてあった前足の持ち主……気高く美しい、闇色の獣を幻視する。 「あぁ……まってて……すぐ、もとにもどすから……かな、らず」 「最後まで憐れな奴だね、お前は……もう良い、うんざりだよ」  灰色の右腕が、黒色の光を纏い始めた。 白い獣を終焉に導く、死の道しるべ。 その名を高らかに叫んだ灰色の人形は、迷わず拳を降り下ろす。 「“終焉を担う神の葬送歌(デウス・エクス・マーキナー)”!」  その時、悲しげに見つめる闇色の獣の姿が、金色の瞳に映し出された……。
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