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隙間より流れ込む陽光に目を細めながら、開いた扉より自室を出た護。
視界に広がる花畑、色々な花々が競うように揺れ香り、護の視線を迷わせる。
「うん、大丈夫、皆綺麗だよ」
そんな花々に応えるように、一つ大きな深呼吸。
新鮮な空気と香りが体内に満たされて、護は満足げに微笑んだ。
そんな護の耳が、小さな爆発音を捉えた。
小首を傾げて周囲を見回し、何故か黒煙の上がる自室の横へと足を運ぶ。
「大丈夫……?」
「おぉ!? まもちゃん、おはよ! 大丈夫大丈夫、ちょっと火ぃ吹いただけだから!」
「それ、大丈夫なの……?」
「まぁ……あははははは!」
短く切り揃えられた茶色の髪に同色の大きな瞳、健康的な小麦肌を包むブカブカの作業着。
それらを所々煤で汚し、護の言葉に咳き込みながらも応えたのは小柄な少女である。
「かおちゃん、直りそう……?」
「うーむ、こいつ相当なオンボロだからにゃー……まぁ、何とかするよー」
スパナ片手に、オンボロ給湯器とにらめっこする彼女の名は薫(かおる)。
護にこの部屋―物置小屋を改造した家屋―を与えてくれた花屋の娘だ。
機械いじりが趣味らしく、家業を手伝う片手間で、こういった修理を請け負っては小遣いを稼いでいるとか……。
「うん、なら任せたよ」
「はいよー……って、あれあれ!? まもちゃん、お出かけ!?」
何時もなら、傍らで自分の作業を楽しげに眺める護が直ぐに立ち去ったものだから、薫は慌てて作業を中断して顔を向けた。
すると護はくるりと振り返り、困ったように笑って声を返す。
「ごめんね、かおちゃん。今日は約束があるから」
「むー、そっかぁ……分かった……」
「お土産、ちゃんと買ってくるから」
「よぉーし! 頑張るぞぉ!?」
現金な薫に小さく笑った護は、再び作業に取り掛かる彼女に背を向けた。
ふわりふわりとフリルを揺らし、慣れ親しんだ石畳に沿って歩みを進める。
そうして、裏庭であるそこから店の横を抜け表通りへ。
その時、店の二階―薫と両親の住まい―から流れる良い香りが、護の鼻腔を擽る。
「スープの匂い……もう、お昼なんだ……」
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